母乳育児の歴史
母乳育児は、赤ちゃんとお母さんにとってメリットが多いと、色々なところで言われるようになりました。
そして、個人的には「母乳育児」と「無農薬栽培」は、なぜかとても共通点があるように見えてしまうのでちょっとここで書いてみようと思います。
まず母乳育児の日本での歴史ですが、1940年代は母乳育児が基本でした。しかし、1950年代にミルクが普及し始めて、1970年代までには母乳普及率は31.7%にまで落ち込み、その後、母乳には免疫物質が含まれている事がわかり、また普及し始めます。2000年には44.8%まで戻しています。
これは、1940年代までは自然農法が基本だった(というかそれしかなかった)が、その後1950年代から農薬、化学肥料を使った農業にトレンドが移り、農薬や除草剤による環境汚染の酷さが知れ渡るようになり、1970年代から有機栽培が見直させられる流れになったのと良く似ています。
赤ちゃんへのメリット
ここで母乳育児のメリットを見てみたいと思います。
- 母乳は赤ちゃんの発育にとっての完全栄養食品
母乳はビタミン、ミネラルなどの栄養分が赤ちゃんにとってバランスよく含まれています。
そして驚くことに、その成分は赤ちゃんの成長に応じて少しずつ変化していきます。そして一回の授乳中でもエネルギーの元となる脂肪分が変化します。吸い始めは、あっさりで長時間吸うとこってりといった具合に変わります。
- 母乳には感染を防ぐ因子がたっぷり
特に出産後3〜5日までに出る初乳は、分泌型免疫グロブリンAという免疫物質を多く含んでいます。
この物質は胃や腸、中耳や気管支の表面にまで広がって膜を作り、細菌やウイルスや、アレルギー物質の血中への侵入を防ぎます。また授乳中に多く含まれるラクトフェリンは大腸菌に対しての強い抵抗力をもっています。(大阪府立母子保健総合医療センターの調査による)
- 顎の発達を高め、その刺激が脳の発達も促す。
赤ちゃんは上顎と舌の間に乳頭を引き込み、舌を巧みに使いながら顎を上下運動させて、乳輪部分をしごくようにして母乳を飲むという技術と労力が必要になります。この顎の上下運動で赤ちゃんのあごの発達を高めて、その刺激が脳の発達も促すというメリットがあります。
一方、ミルクの場合は哺乳瓶を使います。この場合、唇を動かして乳首に引圧をかけながらミルクを飲みますので、あごの強い運動がなくても飲むことができます。赤ちゃんが飲みやすくするように、哺乳瓶の口の穴を大きくする人もいます。
お母さんへのメリット
- 子宮の回復を早める
産後赤ちゃんが乳頭を吸う刺激によって、脳下垂体からオキシトシンというホルモンが出て乳汁の分泌を促す一方で、子宮の収縮(復古)を促して分娩後の出血を止める作用があります。頻繁に母乳を与える事で産褥期の体の回復を早めて自然なリハビリにつながるのです。
- ダイエット効果も抜群
妊娠中に増加した脂肪、つまりは蓄えたカロリーを授乳によって消費できるので、妊娠前の体形に早めに戻る傾向にあります。
- 経済的で手間がかからない
当然ですが、母乳は0円。粉ミルクのようにお湯話沸かさなくてもササッとすぐに授乳ができるので、お母さんはとってもラクです。
赤ちゃんとお母さんに共通するメリット
- 母と子の絆を深めて自然にスキンシップが取れる
母乳育児は、赤ちゃんとお母さんの共同作業ですし、赤ちゃんそれぞれが持つ個性に合わせた形で、授乳します。その一回一回の授乳が母と子の無言のコミュニケーションになり一体感を強めてくれます。
3歳までに母親にしっかりと抱きしめられて育たないと、基本的、他者への信頼感が欠如して、本当に欲しい一体感が得られずに情緒が安定した大人になりづらいという見解もあるぐらい、幼い頃の無意識化での一体感は大切なのです。それを母乳育児が補ってくれるように思います。
母乳育児は無農薬、無化学肥料で野菜を育てるのと似ている
母乳を飲むのに、赤ちゃんが習得する技術は舌の使い方と、咀嚼するのと同じ顎の動きをします。自分で行動するという意思が必要です。ミルクは体の成長に必要な成分を、母乳に近くなるように牛の乳を原料に添加しているので、すぐにその栄養素が吸収されやすい。哺乳瓶を使うので、顎を使わなくても、口先だけで欲しい量を楽に吸う事が出来ます。
無化学肥料で作る野菜は、土壌にある有機物やミネラルを微生物が分解して、手渡ししてもらって吸収するという労力がかかる。その分、野菜が育つ土壌の健康度や重要になるし、野菜の方も粘り強くゆっくり育ちます。
一方、化学肥料で育てる作物は、化学肥料には即効性があり、すぐにその効果が見えますし生育も早く収穫量も多いが、病害虫に弱かったりする。だから農薬が必要なのです。
もしかしたら、子どももミルクだけで育つと免疫力の獲得が遅れる可能性があるので、薬のお世話になる確率が高くなるというようにも見えなくもないです。
まさに土壌は母親で、その中で育まれる植物が赤ちゃん。
母親という土壌がどれだけ栄養豊かで健康かが、赤ちゃんの成長に関わるという事は恐らく野菜も人間も同じように感じます。
妊娠したら・・・ではなく、受胎する前から準備を
自然の中で暮らすインディアンは受胎する半年前から母体作りをします。特別食になっていたそうです。まだ受精するかどうかわからない時点からなので、受胎し妊娠し出産するという事がとてもプライオリティーが高い事をうかがわせると思います。
現代では、排卵する卵子は卵細胞から6ヶ月かけて成長して排卵されるという事がわかっています。昔からその事を直感的にわかっていたインディアンはすごいと思います。
現代の人は、妊娠が発覚するまでアルコールやコーヒーをガブガブ飲み、自然なお産というものからは、離れているようにも思います。
本来、お産は自然な分娩であるはずのところ、「自然」とつけざるをえなくなったりするぐらい、自然にお産する事が大変な体や環境になってしまったのかなとも思います。
粉ミルクが完全に悪いというわけではない
ミルクで育てないといけないと宣伝している人たちは、赤ちゃんが何ヶ月で何キロ増量をしないといけないというプレッシャーを親に与えて、その母と子どもがゆっくりじっくり育つのを妨害しているのかもしれないと思ってしまいます。ミルク販売マーケティング的な目的も多少あると思います。
母乳でこの基準まで体重が増えないのはお母さんのせいなので、ミルクを飲みなさい!というような、市場の要望と人間の都合が入り混じっています。
ただ、母乳の質が悪い場合は話が別のようです。
アトピーにも色々なケースがあると思いますが、母親がアトピーの場合、腸内の微生物細菌のバランスが悪く腐敗菌が皮下細胞で悪さをしている場合があります。その腐敗菌は顆粒球(白血球)に乗って移動しています。
そして母乳は、脂肪分たっぷりの赤血球が抜けた血液なので白血球も運ばれます。
つまり、母親の白血球に腐敗菌が乗っている場合、赤ちゃんは腐敗菌を直接取り込んでしまいます。そして赤ちゃんの腸のシステム的に母乳に含まれる常在菌などすべてを吸収してしまうので、赤ちゃんもアトピーや皮膚の湿疹ができやすくなってしまうそうです。その腐敗菌が喉に行けば喘息、脳に行けば脳症などなど、腐敗菌は細胞の炎症を起こすという事です。
母乳で育てたい場合、母親自体の体を整えないといけないという事だと思います。整える余裕や時間がなければミルクのほうが赤ちゃんのためには良いという事になりますね。
子育ての基準というものはない。だからこそ母親は悩む
話は戻りますが、健康に育っているって、重さや大きさと言った目に見える基準だけではないと思います。誰かが決めた基準が、他の子に比べて劣っている、足りてない、というよくわからないプレッシャーを生み出しますし、本来はゆっくり育児したい母親を追い込んでしまうケースもあるのではないか?とも思います。
育つ速度が遅いと、健康に育ってないのか?
疑問です。
今では、子育てもある年齢である基準に達していなかったりすると発達障害のレッテルをすぐに貼られてしまったりするのも子育てするお母さんへのプレッシャーになります。もっと育児と成長する事って多様性があって良いと思います。ゆっくり成長しても良いと思います。
この基準という概念も、市場に出荷する野菜は、形が揃っていて、綺麗で大きくなくては高く売れないのと似ています。(笑)規格があるんです。規格が。
でも、化学肥料を使わずに育った不恰好の野菜が健康じゃないかと言われるとそうではない、早く急速に育った野菜は味が薄く、ビタミンやミネラルが少ないなんて普通です。まっすぐでシュッとしたきゅうりより、曲がったりゴツゴツしたきゅうりの方が美味しいなんて事もありますよ。
個性なんだと思います、その子ができる事できない事も。味がある人間が減り、規格通りの平均を目指す人間が増えているのと似ています。
一方で、この現代の忙しく自然から離れた生活をしている私たちにとって、ミルクは便利な部分もあります。子どもに関わる時間を減らせるというのが大きい。現代社会は、やる事も多くプレッシャーやストレスが多いのに、育児だけに時間をさく事が重荷になったり、核家族化のためワンオペ育児をしないといけなかったりするお母さんも結構いますし、家庭の事情や個人の事情で早く仕事復帰しないといけない場合は、ミルクはとても便利なツールです。
あと、母親がいなくても赤ちゃんの食事を供給できるという点は大きい。
育児に専念する母親が社会的にもとても評価されるとしたら?
今は、女性だってかっこよく働いて稼いで、自分の時間を充実させてそして育児もスマートにこなす。というアイコンがメディアで流される事が多いので、それを一つの型として目指す人が多いように思います。だからやる事やりたい事がいっぱいで、出産育児はその中の一つとしての捉え方。
そして、もう一方で貧困社会の日本では共働きで働かざるをえない環境になっていて育児に取れる時間が少ない。共働きなのに、核家族化が進んでいるので、子どもの面倒を見るのは、家族、親族でもない第三者になっていて、育児に専念・集中できないといった環境にもあります。
しかし社会全体として、子育て専業のお母さんの社会的な地位がもっと高かったら、育児への社会保障がもっと充実していたらどうなんでしょうか?フランスではシングルマザーでも社会保障が手厚いので、日本よりも余裕があり出生率は日本よりも高いです。
もっと評価が高かったら、インディアンみたいに、受胎する半年前から食事や健康に気をつけて妊娠中も健康に産むという事に全力を傾ける事が楽しくできる気がします。そして子どもがある程度大きくなるまで一緒にいてあげたり、もっと兄弟姉妹が多い家族になったりとする確率が高くなったりする可能性はあります。
昔、キューバは農業をやっている人の社会的な地位が高いので、みんな農業をやりたがるという話を聞いた事がありました。
(日本では誰かに相談に行くと、だいたい「厳しいぞ」とか「農業なんてやるもんじゃない」「食ってはいけないぞ」と多くの先輩に言われます。)
結局、社会の評価で人ってやる事ややりたい事が変わります。
子育てをする人がもっと評価される世の中になれば日本は変わる
子どもは未来だよ。と、ある人から言われた事があります。
野菜を育てていると種はその種の未来である、その種の過去の記憶だなとつくづく思います。彼らはその事だけに全力を尽くします。種が熟成しない時に食べられてしまうのは彼らの本意ではないと思いますが、私たちはそれを食べています。(笑)
もちろん、人間には文化的な種(遺伝子)を残すという他の生物があまり重要視していない種の保存もしている生物なので、出産だけが種を残すという事ではないと思いますが、人間の種の未来を作れてそれを豊かに育める母親の事を社会がもっと評価して良いのではないかと思ってしまいます。
個人的には、経済成長するよりも社会のシステムを変える事のが重要だと思ってはいますが、経済成長したいのなら、GDPを増やしたいのなら、GDPや経済成長なんて消費の合計なのだから人口が増えれば簡単に上がる。
人口増やしたかったら、母親にもっと予算つけてあげて、もっと余裕ができれば、人口は自然と増えていくのでは・・・と思うのは私だけではないはず。
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